自律神経と心の関係(2)トラウマのできるしくみ

前回の、自律神経と心の関係(1)では、<本来の、心地良い自律神経のリズム>=「自己調整」

ということについて、お話ししました。

このようにして、「自己調整」の力が安定してくると、安全に「トラウマの解放」をすることが可能になってきます。

 

今回は、もう少し詳しく、では「トラウマ」とは一体、何なのか?

自律神経の視点から見ると、トラウマは、どんな「しくみ」でできるのか?・・について、見ていきたいと思います。

 

まずは、イメージしやすいように、野生動物の例で考えてみましょう。

ある草原で、うさぎが大きなライオンに見つかり、追いかけられることになったとします。

うさぎにとっては、もうトラウマになってしまいそうな、大きなストレス状況です。

何かストレスに遭遇すると、動物の自律神経は、「戦うか・逃げるか」の、交感神経へとスイッチがオンになります。

うさぎは、一瞬「戦おうかな?」と振り向くのですが、

相手が自分より大きくて強いライオンだとわかると、全速力で逃げ出します。<「動く」モードの、交感神経>。

 

 

 

 

 

 

でも結局、ライオンに追いつかれてしまいました・・・😭

「もう、「戦う」ことも「逃げる」こともできないんだ・・」となったうさぎは、

そこで自動的に、動けなくなってしまいます。いわゆる、「死んだフリ(擬死)」です。

自分にとって、あまりにもストレスが大きく、戦うことも、逃げることもできない場合、

動物の身体は勝手に、「凍り」ついて、「動けなく」なります。<「おやすみ」モードの、副交感神経>。

これらはすべて、身体・自律神経が瞬時に判断をして、自分の身を守ろうとしてくれるのです。

 

でもなぜ、「動かない事」で、身を守ることになるのでしょうか?

それは、捕食者は、「獲物がもう生きていない」と感じると、一旦、獲物から離れることがあるからです。

ライオンが油断したその隙をみて、もしかしたらうさぎは、また走って逃げるチャンスができるかもしれません。

またもし、最悪、襲われてしまったとしても、凍りついて感覚を麻痺させていることで、

「痛みを感じないですむ」という利点もあります。(この時に出る物質は、「天然の麻酔」と言われます。)

 

<野生動物はなぜ、トラウマにならないのか?>

トラウマ療法の分野の第一人者に、Somatic Experiencingというセラピーを開発した、Peter Levineという人がいます。

彼は、野生動物たちがこのように、日常的にトラウマになりそうな、ショックな出来事にたくさん出会っているのに、

その後、人間のようにはトラウマの症状が見られないことを、疑問に思いました。

そして、研究を重ねた結果、あることがわかったのです。

それは、野生動物たちは、「死んだフリ」で動けなくなった後、

再び立ち上がる際に、<ブルブルっと震えている!>ということだったんです。

 

野生動物の生態のビデオなどを見てみると、良くわかります。

捕獲されそうになって、倒れていた動物が、立ち上がるまえに、確かにブルブル震え、その後に目覚めたようになって、

また何事もなかったかのように、走り出す姿が、写っています。

どうやら、野生動物たちは、ショックな出来事により凍りついた、「戦う・逃げる」のエネルギーを、

本能的に<震えること>で、解放(ディスチャージ)をしているのです。

そのため、野生の動物は、その後、トラウマの症状になっていかない、ということがわかってきました。

 

その一方、人間は、どうして「震え」が起こらず、トラウマの症状へと発展していってしまうのでしょうか?

実はそれは、人間が、「理性脳」と呼ばれる、前頭葉が発達していることに理由がありました。

人間は、大きなショックになる出来事が起こり、凍りついた後に、

この本能的な「震え」や、「凍りついたエネルギーを解放する」という身体の自然な動きを、

「そんなことはおかしい」「やめとこう」などと、理性でストップさせていることが多いことがわかったのです。

この人間の「理性脳」の特徴が、身体が持つ本能的な「自然治癒力」の発揮を、阻んでいたのですね。

 

そしてこの、「凍りついたままのエネルギー」が、人間の日常生活に、様々な症状

(フラッシュバック、解離など・・)や、困難を引き起こしていきます。

また、「凍りつき」が起こっている水面下では、本当は、戦う・逃げるに使いたかった、

膨大な「動くため」のエネルギー(交感神経)が渦巻いています。

 

ですので、私たちのセラピーでは、少しずつ、「身体」という、本能的な領域に、安全にアクセスができるようにし、

この「凍りついた」エネルギー、言い換えれば、

副交感神経から出られない(動けない・麻痺・解離などの低覚醒)」状態か、

もしくは、「交感神経から出られない(戦う・逃げる・イライラ・・など、過覚醒)」状態を、

いかに自己調整の力を保ちつつ、<安全に>解放し、落ちつけてゆくか、ということを、ていねいにやっていきます。

 

凍りついていたトラウマのエネルギーが、安全に解放され、安定すれば、

それは再び、「流れ」として身体に戻って来てくれるのです。

そしてそれは、日常をより自由に創造するためのエネルギー、生命力となってくれます。

 

・・次回(3)へ続きますね。

 

貴船の方は、床を準備中でした、涼しげですね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なぜ、「からだ」が大事なの? ― トラウマ と身体の関係

 

トラウマ や、こころの癒しを考える時に、

「からだ」の感覚をみてゆくことが大切になる、というのが、

最近のトラウマ・セラピー界隈の定説となりつつあります。

 

なぜなら、私たちのトラウマの体験は「からだ=無意識」にこそ、刻み込まれているから。

 

実は、私たちは、これまでに体験したことすべて、

(今世の記憶から、たましいにおける過去生(信じる方は)の記憶もすべて・・)

を、「からだ」に記憶し、携えています。

 

「トラウマ」とは、過去に、自分にとって、何か衝撃の強い体験をした時に、「身体」において起こります。

それは、たった一回の、大きく衝撃的な体験のこともあれば、

小さくても、ストレスになる体験が何度も繰り返されることにより、「トラウマ」になることもあります。

(そう言う意味では、この世の中に、「トラウマ のない人」は、ほぼ居ないのですが。^^)

 

どちらにしても、トラウマ とは、その時、圧倒されて、処理しきれなかった感情や、衝動

(その時にしたかったのに、できなかったこと)

などが、身体の中にエネルギーとして溜まっている、「冷凍保存」されているような状態なのです。

ヒーリング的には、「ブロック=固まり」とも呼ばれます。

 

ですので、トラウマ を解放しようとするときには、

過去のショックだったできことを単に認知レベルで思い出して「お話」するというのでは、

十分でないことが多いのです。

(むしろ、準備なく、トラウマ 体験を「お話する」ことは、しんどくなる=再トラウマ化する可能性もあります)。

 

前回お話ししたような、リソース(力になるもの)確保の「下ごしらえ」をしながら、

トラウマ の記憶を抱えている、「身体」の感覚に、少しずつアクセスしてゆきます。

 

そうすることで、時に、意識のレベルでは思い出しにくいような、深い記憶にも、

安全にアクセスし、解放に向かうことができるのです。

 

わたしはここに、人間にこの、「身体・肉体」というものがあることの、

不思議さ、有り難さや、尊さを感じています。

この「身体」こそが、私たちがトラウマを受け、傷を受ける場所でもあり、

同時に、過去に受けた「傷つき」を解放し、癒せる場所でもあること。

そして、「本当の自分」とでも呼ぶような、私たちがトラウマ を受ける前から存在している、

「自己の神聖さ(=セルフ)」とのつながりを、思い出すことのできる場所でもあること。・・・

 

人間に、その、「身体」という場所があることの、不思議さと、ありがたさを、しみじみと感じています。

・・・・

リンドの郷間夢野さんが描いてくれた、今日のわたし

トラウマのセラピーにおいて大切なこと -「リソース」とトラウマ

 

2022年、どうぞ、皆さまにとり、素晴らしき一年となりますように✨

 

今回は、「リソース」とトラウマの解放について書いてみますね。

私が、セラピーの中でも、とくに大事にしていることの一つに、

「リソース(=心や体がほっとして、落ち着く状態)を育む」ということがあります。

 

でもなぜ、セラピーで、「リソース=心身が安心すること」という「肯定的な体験」を育むことを、

まず、大事にするのでしょうか。

 

トラウマを解放するセラピーの過程を、「もも太郎の鬼退治」にたとえてみるとします。

ここでの「鬼退治」とは、「トラウマ、傷つき」といった、一見、否定的なものに向き合うこと。

鬼=心の中の傷や、ネガティヴなこと、影の部分に出会うこと、にたとえられるかも知れません。

 

鬼退治に行く場合、いきなり、素手で鬼のところに行って「たのもう!」とはしませんよね。

まずは、おばあちゃんにもらった、きびだんごを用意します。

そして、仲間になってくれる、いぬ、さる、きじといった、動物たちに出会って、みんなで心を一つにしていきます。

まずはそういった、味方になってくれるもの=「リソース」と出会い、

鬼に出会うための「力」をつけてから、鬼ヶ島に向かっていきます。

 

「リソース」を育むのは、この「自分の力・味方になってくれるもの」を、大きなストレスに向き合う前に、

しっかりと準備してゆく、下ごしらえのようなものだと思っています。

 

そして、十分なリソースをたずさえ、「力」をつけて、鬼ヶ島に向かったら、

以前には「鬼」と思っていた、トラウマや傷つきに向き合う頃には、

実はもう、鬼は、そんなに怖いものでもなくなっていることが、多いものです。

お話の中でも、最後にはむしろ、鬼こそが、宝もの(生命力)をもたらしてくれるのですから。

 

セラピーでも、リソースの「土台」があってこそ、トラウマの解放が、

そして自分にとっての「真実(ほんとうのこと)」を統合することが、安全かつ、着実にすすみます。

 

逆に、この「リソースの土台」づくりが十分でない場合、急速にトラウマに暴露するようなセラピーを行って、

かえって症状が悪化した・・というようなことも、残念ですが起こりうります。

 

ですので、これは、声を大にしてでも、お伝えしておきたいのです。

リソースという、力を育んでゆくプロセス自体が、トラウマや傷つきを癒す、たいせつな一歩一歩なのです。

 

これまで、数々のトラウマに関わる療法を学んできましたが、その中でも特に、リソースの土台を作ってゆく(思い出してゆく)ことは、

「安全」に、「着実」にセラピーをすすめる上で、何より大切なことだと、心より痛感しています。

このセラピーでの、リソース構築の大切さが、一般には恐らくまだあまり知られていない所が、歯痒いところです;;

「安心・安全」という言葉は、一見地味に見えるのですが、意外と奥が深く、

これこそが、「癒し」の土台、エッセンス と言ってもいいほどなのです。

 

みなさんに、ぜひ本当の意味で「安心」できるセラピーを、受け取っていただきたい、

また、自分もそういうセラピストでありたい、という、熱い思いがあります。

 

次回も、トラウマのセラピーにおいて大切なこと、続けて書いていきますね。

 

ドイツで出会ったカレンドゥラの花

 

 

トラウマセラピーにおける、リソースの大切さ② 

今回は、私たちの心と体のバランスを取り、力になってくれる、

<リソース>ということについて、書いていきます。

 

 

 

 

<リソースとは?>

リソース(資源)とは、<自分にとって、力になる、心地よいものや、こと>。

実は、この<リソース>、特別に大きなことでなくても、

例えば <今、ここで、呼吸をしていること>・・というような

一見ごく「普通」と思われることの中にも、存在しています。

大きな意味では、今・ここに<存在していること>。

・・呼吸をしていて、心臓が動き、意識 = いのち があること。

もうこれ自体が、リソースそのものだとも言えます。

そういう意味で、実は、リソースが「ない」人は、いません。

でも、これでは少し漠然としているので、もう少し具体的な例をお話しますね。

 

例えば、今、地面の上に、しっかり足の裏が乗っていて、なんだか「安心」する感じがあるとします。

この安心感は、からだで感じている「リソース」です。

セラピーの中では、このリソースから生まれる、「安心感」に気づいてゆくことで、

心身に残る、「トラウマ」のエネルギーとのバランスを取り、神経系を落ち着かせたり、

トラウマのエネルギーの解放につなげてゆくことも行っていきます。

 

しかし、これまであまり身体感覚を意識してこなかった方や、

過去に大きなトラウマ(小さなトラウマでも、何度も重なる体験など)があった方は、

初めは、「安心感」や身体の内側で感じる、<内的なリソース>は、見つかりにくいかも知れません。

それは、自然で、理由があることです。

というのも、身体は、あえて「感じにくく」することで、たとえばトラウマなどへの反応として起こる、

身体の「不快な感覚」から、「身を守る」働きをもっています。

そのため、たとえ安心という「心地よい」感覚であっても、いきなり「感じる」ことは、難しいこともあるからです。

 

ですので、そういう場合は、無理に「感じ」ようとしなくて大丈夫。

まずは<外的リソース>と呼ばれる、自分の外側・環境にある<心地よいもの。役に立つこと。>に目を向け、

少しずつ、それを育んでゆくことが、徐々に安心感を増やし、回復への力を育む、契機となっていきます。

 

ポージェス博士という、生理学的な神経の働きと、トラウマとの関連を論じている研究者は、

「(トラウマへの)治療とは、安全であると感じられるようになることである。」と語りました。

 

<リソース(心地よいもの)>に触れている時、私たちの心と身体は「ほっ」として、

自然と、自律神経系・心拍数・呼吸のあり方などが安定し、調整された状態になります。

この<リソース>によって育まれる心身の「安心・安全」な状態が、

トラウマなどストレスへの反応(戦う・逃げる・凍りつく)へ向き合う際の、大きな力となっていきます。

 

もちろん、心の深い部分の癒しや変容については、他者、専門家のサポートが重要ですが、

この「リソースに目を向けること」は、セルフケアとして、少しずつ、日常でも行えます。

日常生活でも、自分にとっての「リソース」に気づいてゆくことは、まるで「1円玉貯金」のように

地味なようでも着実に、心身の元気になる力=回復力(レジリエンス)を、増やしていくことに繋がるので、

お得(笑)です。

 

<宝もの(リソース)は、すべての中に>

私にリソースについて教えてくれた、あるトラウマセラピストは、

「リソースは、<無限>にある。そして、リソース構築は、<宝探し>のようである。」と話してくれました。

確かに、私たちの「リソース」という「宝」は

<無限に存在していて、これからも、たくさん見つけることができる>

と思うと、何だか励まされるようで、うれしくなります。

 

しかし、ときに、あなたの「宝もの」は、すぐには見つからないこともあるかも知れません。

なぜなら、思い出されない、「眠っている」宝も存在するからです。

なので、たとえもし今、自分にとってのリソースを、何一つ思いつかなったとしても、焦らないで大丈夫。

リソースは、今はそっと、眠っているだけなのかもしれません。

その場合は、「これまでに、何が良かったから、自分は生きてこられたのか?」

という問いに、少しだけ思いを巡らせてみてください。・・・

宝物(リソース)は、決して、なくなることはありません。

 

また、大切なことは、リソースには、とても個人差があるものだということ。

<自分にとって、心地よいか>が、大事なポイントです。

他の人が好きなものでも、あなたにとっては心地よくないかもしれません。

「今」の自分にとって、心地よいもの、役に立つもの。それこそが、あなたの力になってくれます。

 

もし良かったら、下記の<宝(リソース)探しへのヒント>を、

あなたにとってのリソースを見つける参考にしてみてください。

少しずつ、紙に書き出してみると、より「意識化」につながるので、おすすめです。

 

<リソース(宝)探しへのヒント>

<関係性>
自分がほっとして安心できる人。グループ。好きな動物。(想像上の生き物でも)。

これまで、助けになった人。 好きな有名人。尊敬する歴史上の人物。想像上のキャラクター。

これまで誰かにかけてもらった、うれしい言葉など。

たとえば、いつも行くパン屋さんの、あるレジの人の顔を見ると、なんだかほっとする、元気が出る・・。こんなこともリソースの一つです。

<場所>
ほっとする、お気に入りの場所。自分の部屋。図書館。公園。友人の家。カフェ。マッサージ屋さん。

温泉。お布団の中・・など、リラックスしたり、元気が出る場所、安全な「避難所」が、いくつかあると、心強いです。

<物>
役に立つもの。心と体がやすらぐ、よろこぶもの。

例えば、お気に入りの毛布、着心地の良い服、自転車、好きな食べ物、お守り  etc・・・

<自然>
「自然」は、何よりパワフルなセラピストです🌿

外に出て、太陽の光をあびてみる。新鮮な空気を吸ってみる。

山や海、川のほとりを散策する。花、草などの植物を見たり、香りをかぐ。

土や砂の上を裸足で歩く(アーシング)。 雨の音を聞く。日向ぼっこ。ろうそくの火を見ること。

私は、好きな木に触れたり、好きな石のそばに座ってみると、落ち着いたり、元気が出ます。

<クリエイティブ>
好きな音・音楽を聞く。劇・映画をみる。本を読む。お笑いを見る。

声を出すことや、歌うこと。ふーっと長く息を吐くこと。散歩すること。

絵を描くこと。日記や文章を書いてみる。スポーツを見る。ダンスする。ヨガへ行く。

動きたいように身体を動かしてみる。

好きな食材で料理をしてみる・・など。

「気持ちが良い行動」は、「今・ここ」に集中しやすく、とっても創造的。

<スピリチュアル>
「スピリチュアル」というと、なんだか特別な響きがありますが、

日常の中でも、自然の中に居る時や、好きな人といる時などには、

何とも言えずほっとしたり、「自分」が広がるような気持ちになったりします。

私にとって、「スピリチュアル(神聖な)」体験とは、

<「私」を超える、より大きなもの・「自然」との「つながり」に気づくこと> です。

ある人は、「床掃除や、窓のガラス拭きを無心にしているときに、

なんとも自分が広がり、清められるような気持ちがする」と話していました。

これも「神聖さ」の体験の一つではないでしょうか。

メディテーション(瞑想)をすることで、より深く自己と「つながる」ことも、落ち着いた気持ちにしてくれます。

時には、お祈りをすること、より大いなる存在へ呼びかけること・・なども

私たちに、力を与えてくれます。

 

「リソースは無限にある」・・ということで、上に書いてある事にとらわれず、

あなたならではの、小さな心地よさ、「宝もの」を、少しずつ、見つけていってみてください。

きっと、あなたの日常の中に、あなたの「喜び」、「調和」のささやかな瞬間が、増えてゆきます。

そしてそれは、きっと、いつしかあなたの「大きな力」になってゆくことでしょう。

 

トラウマセラピーにおける、リソースの大切さ① 

先月は、「コレモ(Community Resiliency Model)」という、

神経系の働きを生かしたケアの方法を学びに、大阪へ行ってきました。

そこで、再確認したのは、やはりと言うべきか、「リソースの大切さ」でした。

 

リソースとは・・・「自分にとって心地よい、ものや、こと」。

自分の心と体が、安心したり、ほっとする事象、すべて。

この「リソース」、こう書くとシンプルなのですが、これが案外、奥が深いのです。

一体どうして、「リソース」に注目することが、セラピーで、そして、ひいては人生において、

欠かすことのできない、大切な事なのでしょうか。すこし詳しく、見ていきたいと思います。

 

<ネガティブ・バイアスの存在>

私たちの脳には、ついつい、ネガティブなことに焦点があたるという

「ネガティブ・バイアス(偏り)」なるものが存在しているといいます。

Rick Hansonという心理学者は、

「脳は、ネガティブな経験へのマジックテープであり、ポジティブな体験へのテフロンである。」

と言います。

「マジックテープ」は、一度ベリっとくっくと、中々離れないもの。

 

 

 

「テフロン」は、フライパンの表面みたいに、つるっとすべって離れるもの。

 

 

つまり・・・、それくらい

私たちの脳のあり方は、ネガティブな体験に気づきやすい。ポジティブな体験は、忘れやすい傾向がある・・

ということのようです。

このネガティブ・バイアス、かつては、私たちが進化してゆく過程で、

「危険」を察知し、避けることができるように、役立ってきました。

例えば、森に暮らしていた頃なら、「あの洞穴には、毒蛇がいたぞ!」と覚えておくことで、

その危険(トラウマ的な反応を起こさせるもの)には近づかないようにさせて、生存率をアップさせてきたといいます。

しかしながら、

現代においても、この機能(ネガティブ・バイアス)だけが強く残り、

日常的に、そういった「危険」への感覚・感情・思考に占領されている・・となると、困りものですね。

自分自身にも、思い当たるふしがあります。

なぜか、「できたこと」より、「できなかったこと」の方ばかりを思い出す。

なぜか、「自己否定的な声」がある。(・・ 特に自分がセラピーを受ける前には、たくさんありました。)

しかし、人間にはこういった脳の傾向があるのだ、と知ると、納得です。

ただ重要なのは、これは、単に「ポジティブ思考は良い」・「ネガティブはダメ」というお話ではないということ。

ネガティブなものを「抑圧」するのではなく、

「今・ここ」に、ネガティブなものがあることに気づきながら、

ポジティブなものがあることにも、意識を向けることができるという、

選択」があることに気づくようになること、

そして「バランス」を取ることができるということに、大切な意味があると思います。

 

「リソース(心地よいもの・安全なもの)」の存在にも目をむけ、それを育んでゆくことは、

この両者のバランスをとることを助け、

人生をより調和的に生きることへの、力になります。

では次回は、この「リソース」ということについて、より詳しく、お話しますね。

 

先日登った、鞍馬山から

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

トラウマは、身体で起こる。

最近のトラウマ治療の流れの中で、とても重要になってきている考え方で、

「トラウマ(心の傷)は、単に「語る」だけでは、回復につながりにくい。」ということがあります。

これは、トラウマはというものは、実は、

「身体」に残った、過剰な「ストレス」に対しての反応である

ということ。

ゆえに、トラウマ的な出来事は、しばしば、言語で語ることが難しいことが、関係しています。

何かの出来事が起こり、その人が、それを「ストレス」だと感じるとき、身体では、様々な反応が起こります。

(筋肉の収縮、自律神経系の過剰な反応、ストレスホルモンの放出など・・・。)

そして、セラピーでは、

ストレスに対して起こっている、

そういった「身体レベル」での反応に気づき、

解放、または調和させてゆくことで、

過覚醒(フラッシュバック・パニック・興奮・・)、低覚醒(解離、うつ、無気力)など、

いわゆる「トラウマの症状」からの回復も起こっていきます。

頭で考えて「語る」のみでは、トラウマの根っこにある「身体レベル」の反応に、変容をもたらすことが中々難しい場合があるのです。

私自身、「解放のフィジオロジー」というクラスで、

ソマティック・エクスペリエンスという療法をベースにした、身体・神経系の側面からの、癒しのアプローチを学ぶ中で

まず、自分自身の身体で「何か起こっているのか」を知り、

実際に、自分の身体が、どんな風に多くのストレスへの反応をしていたか(!)に気づき、

同時に、自分の中にある、ストレスから回復する力、「自己調整」の力を高めてゆくことで、

「今」を生きることが、昔に比べて格段と、からだごと、楽になってきました。

これは、自分の存在のあり方を、身体ごと、じわじわと変えてゆく、安全で、かつ深いところからの癒しのアプローチだなあ・・と、実感しています。

次回は、癒しにとても大切な、「リソース(資源)」ということについて、少し書きたいと思います。

 

 

 

 

 

 

 

 

California のJoshua Tree にて

 

 

 

 

 

 

 

心の傷(トラウマ)

<「トラウマ」とは?>

「トラウマ」とは、強いストレス(ストレス=心や体に不快感を与える出来事)を受けた時にできる、「心の傷」のことを言います。(大きなもの、軽いもの、様々な種類に分けれますが、ここではざっくりと「心の傷」とします。)

「トラウマ(心の傷)」の症状としては

過覚醒(過緊張)、フラッシュバック、悪夢、解離症状、などがあります。

そして、たとえば

日常の中の原因不明の「しんどさ」。

対人関係でのうまくいかないパターン。

怒りなど、感情のコントロールのしにくさ 。

自責。

うつや不安。

不眠。

慢性的な疲れ。(慢性疲労症候群)

自律神経・免疫系の調整不全。線維筋痛症。

体の痛み。

心身症

・・・などといった、不調の背景にも、過去の「心の傷」が存在していることがあります。

<トラウマからの回復の段階>

トラウマからの回復のプロセスでは、大まかに、以下の三段階のプロセスを大切に、個々のプロセスを尊重しながら進んでいきます。

1.安全の確立(安定化)

まず、心と身体が「安全」を感ることが、とても大切になります。(過覚醒を落ち着ける)。

そして、自分の中にある、リソース(心と身体に心地のよい、力となる感覚)を育んでいきます。

環境の調整、食べること、眠ること、休むこと、運動など、基本的な身体のニーズを満たし、自分をケアしていきます。

2.記憶の統合(トラウマの処理)

リソースを育みつつも、身体や過去の記憶に残ったトラウマ的感情や、感覚に気づき、解放してゆくプロセスになります。

3.再結合(統合)

新しい自分のあり方で、周りの環境・コミュニティーとの関係をつくっていくプロセス。自分の新しいあり方の、統合。

そして、こころの傷からの回復のプロセスは、「身体」とのつながりの回復が、になっていきます。

次に、このトラウマと、「身体」の関係について、書いていきたいと思います。