前回の、自律神経と心の関係(1)では、<本来の、心地良い自律神経のリズム>=「自己調整」
ということについて、お話ししました。
このようにして、「自己調整」の力が安定してくると、安全に「トラウマの解放」をすることが可能になってきます。
今回は、もう少し詳しく、では「トラウマ」とは一体、何なのか?
自律神経の視点から見ると、トラウマは、どんな「しくみ」でできるのか?・・について、見ていきたいと思います。
まずは、イメージしやすいように、野生動物の例で考えてみましょう。
ある草原で、うさぎが大きなライオンに見つかり、追いかけられることになったとします。
うさぎにとっては、もうトラウマになってしまいそうな、大きなストレス状況です。
何かストレスに遭遇すると、動物の自律神経は、「戦うか・逃げるか」の、交感神経へとスイッチがオンになります。
うさぎは、一瞬「戦おうかな?」と振り向くのですが、
相手が自分より大きくて強いライオンだとわかると、全速力で逃げ出します。<「動く」モードの、交感神経>。
でも結局、ライオンに追いつかれてしまいました・・・😭
「もう、「戦う」ことも「逃げる」こともできないんだ・・」となったうさぎは、
そこで自動的に、動けなくなってしまいます。いわゆる、「死んだフリ(擬死)」です。
自分にとって、あまりにもストレスが大きく、戦うことも、逃げることもできない場合、
動物の身体は勝手に、「凍り」ついて、「動けなく」なります。<「おやすみ」モードの、副交感神経>。
これらはすべて、身体・自律神経が瞬時に判断をして、自分の身を守ろうとしてくれるのです。
でもなぜ、「動かない事」で、身を守ることになるのでしょうか?
それは、捕食者は、「獲物がもう生きていない」と感じると、一旦、獲物から離れることがあるからです。
ライオンが油断したその隙をみて、もしかしたらうさぎは、また走って逃げるチャンスができるかもしれません。
またもし、最悪、襲われてしまったとしても、凍りついて感覚を麻痺させていることで、
「痛みを感じないですむ」という利点もあります。(この時に出る物質は、「天然の麻酔」と言われます。)
<野生動物はなぜ、トラウマにならないのか?>
トラウマ療法の分野の第一人者に、Somatic Experiencingというセラピーを開発した、Peter Levineという人がいます。
彼は、野生動物たちがこのように、日常的にトラウマになりそうな、ショックな出来事にたくさん出会っているのに、
その後、人間のようにはトラウマの症状が見られないことを、疑問に思いました。
そして、研究を重ねた結果、あることがわかったのです。
それは、野生動物たちは、「死んだフリ」で動けなくなった後、
再び立ち上がる際に、<ブルブルっと震えている!>ということだったんです。
野生動物の生態のビデオなどを見てみると、良くわかります。
捕獲されそうになって、倒れていた動物が、立ち上がるまえに、確かにブルブル震え、その後に目覚めたようになって、
また何事もなかったかのように、走り出す姿が、写っています。
どうやら、野生動物たちは、ショックな出来事により凍りついた、「戦う・逃げる」のエネルギーを、
本能的に<震えること>で、解放(ディスチャージ)をしているのです。
そのため、野生の動物は、その後、トラウマの症状になっていかない、ということがわかってきました。
その一方、人間は、どうして「震え」が起こらず、トラウマの症状へと発展していってしまうのでしょうか?
実はそれは、人間が、「理性脳」と呼ばれる、前頭葉が発達していることに理由がありました。
人間は、大きなショックになる出来事が起こり、凍りついた後に、
この本能的な「震え」や、「凍りついたエネルギーを解放する」という身体の自然な動きを、
「そんなことはおかしい」「やめとこう」などと、理性でストップさせていることが多いことがわかったのです。
この人間の「理性脳」の特徴が、身体が持つ本能的な「自然治癒力」の発揮を、阻んでいたのですね。
そしてこの、「凍りついたままのエネルギー」が、人間の日常生活に、様々な症状
(フラッシュバック、解離など・・)や、困難を引き起こしていきます。
また、「凍りつき」が起こっている水面下では、本当は、戦う・逃げるに使いたかった、
膨大な「動くため」のエネルギー(交感神経)が渦巻いています。
ですので、私たちのセラピーでは、少しずつ、「身体」という、本能的な領域に、安全にアクセスができるようにし、
この「凍りついた」エネルギー、言い換えれば、
「副交感神経から出られない(動けない・麻痺・解離などの低覚醒)」状態か、
もしくは、「交感神経から出られない(戦う・逃げる・イライラ・・など、過覚醒)」状態を、
いかに自己調整の力を保ちつつ、<安全に>解放し、落ちつけてゆくか、ということを、ていねいにやっていきます。
凍りついていたトラウマのエネルギーが、安全に解放され、安定すれば、
それは再び、「流れ」として身体に戻って来てくれるのです。
そしてそれは、日常をより自由に創造するためのエネルギー、生命力となってくれます。
・・次回(3)へ続きますね。